遊具のない遊び場

年をとってから見返して笑えるようなに 。twitter @michiru__nagato note https://note.com/a_maze_amazes_me

なんですかこれ

へ へ

の の

 も

 

↑こいつムカつく顔してんな

 

 

 

 隣の席の鳥は、昼の間に老人から奪い取ったパンくずを、時折ジャケットのポケットから取り出して、それをつまみにジャックニコルソン(アルコール度数10000000000)の涙割りを飲んでいた。あれじゃあ空もまともに飛べんよねぇ……。鳥の真ん丸の目は充血している。おそらく涙が足りなくて、ソーダ割りよりも高価な涙割りを飲んでいるのだろう。いや、むしろ泣きはらして、涙が足りなくなったのかもしれない。

 なにはともあれ、その鳥の姿を見ていると、自分の飲んでいるジョニーワーカーが酷く安っぽいように思われた、事実安いし。学割だし。

 店内には躁鬱病みたいなロックミュージックが流れている。たまにコードを歪んだ音で鳴らしているだけの、ごくごくシンプルなロックが聴きたくなる。たまにはそういう曲を掛けてくれないかしらん、とぼんやり。曲が終わり、次の曲が始まるまでの静寂が訪れた時━━つまりはとても良いタイミングで━━グラスの氷がカランと鳴った。いや、氷の音じゃなかった。だって、カランの後に、コロンカランって続いたから。

 後ろを振り向くと、師・ナム亜美様がいらっしゃり、咄嗟に僕は「私はサボっていたわけではないんです」と苦し紛れの言い訳をした。師・ナム亜美様は、まるでそんなことはどうでもいいというふうに首を振り、「ジョニーワーカーではなく、ウォーカーだ」と、先に書いた酒の銘柄について修正を与えた。僕としては働くジョニーと歩くジョニーも同じ人間だという博愛的な思想をもっているので、修正を行う気にはならなかった。でもやっぱり師・ナム亜美様の修正は避けられない。やれやれ、僕は射精した。ワーカーの上に白い液体がかかった。ごめんな……働くジョニー……。これで修正液はOK。明日の朝になったら、文字は隠され、そこにウォーカーと上書きしなければならない。「ワーカー」と「ウォーカー」では文字数が違うので、上手く誤魔化さないとな、と思っていると、師・ナム亜美様が僕の隣に座り、学割を使って涙割を頼んでいた。

「もしかして、私の分も頼んでいます?」

 師・ナム亜美様は口のへの字にして「文章へんだよ。そこは私の分も頼みました? だろう?」と言った。

「へへへ……」僕はへの字の眉毛を八にして抗議の態度を取った。表情がちぐはぐなのは、元々そういう顔立ちだからで、むかし表情がばらばらだとガールフレンドに言われて本気で腹が立ったの、今思い出したわ。

師・ナム亜美様も怪訝そうに眉を八にし、下からおもちゃの刀を取りだして、いかにも「分かるかい?」と言いたげな顔で僕ののの穴になっている部分を引っ掛けて、それを引っ張った。どうやら怒っているらしかった。

のがつになってやがて目が見てないと自覚すると3になったが、僕は3という数字が苦手なので頑張ってつの状態までもどした。

 

まあこんな感じ↓

へへへへへへへへへへへへ

の の   つ つ   3. 3   つ  つ

   も      も       も       も

  へ       へ       へ       O

 

 

「マジで文字でふざけるな、殺すぞ。早く文章を直せ。日野昇国日本やからな!そげん、ふざけた文章あるわけないけん!」

「アイヤー!」

 たまらず僕の口、へはOに変わった。そうするとバーテンダーのフィリップは僕の口元にjを放り投げ「ggg」とくぐもった笑い声を立てた。取り急ぎ僕はjを口の中に入れて、咀嚼し嚥下し、口をへに戻し、師・ナム亜美様にごめんなさないを言った。こういう状況になったら、さすがの僕も良心の呵責に襲われた演技するために、顔のパーツをニュートラルに戻すのだ。両親の癇癪の時もいつもそうしている。

「ええか?」師・ナム亜美様は目が元ののの形に戻らず、つのままでいる僕を見て、狼狽えていたが「これが」と言い顔を赤くして「愛やー!」と叫んだ。

 なにがなんだか分からなかった。